東京大学大学院工学系研究科の酒井崇匡教授、石川昇平助教、作道直幸特任准教授と、同大学大学院医学系研究科の北條宏徳准教授、理化学研究所生命機能科学研究センターの岡田康志チームリーダー(東京大学大学院医学系研究科・大学院理学系研究科 教授)、北海道大学大学院先端生命科学研究院のLi Xiang准教授の研究グループは、水溶性高分子であるポリエチレングリコール(PEG)の網目が大量の水を保持したPEGハイドロゲルにおいて、新しい相分離現象「ゲル・ゲル相分離」(Gel–Gel Phase Separation, GGPS)を発見しました。ハイドロゲル(以下、ゲルと省略)は、多くの水を含む固体の材料で、ゼリーや寒天などの食品をはじめ、ソフトコンタクトレンズや止血剤などの医療機器としても用いられている私たちになじみの深い材料です。ゲル・ゲル相分離は、含水率99%程度の大量の水を含む状態でゲルを効率的に作ることで誘起されました。ゲル・ゲル相分離により、希薄ゲルの中に100 µm程度の濃厚ゲルの繊維状網目が張り巡らされ、細胞外マトリックス類似のスポンジ構造を持つ「ゲル・ゲル相分離材料」が形成されました。驚くべきことに、ゲル・ゲル相分離材料は疎水性を示しました(図1)。PEGはドラッグデリバリー、組織工学、診断など多様な医学的用途に広く利用されており、その有用性から50万報を超える学術論文が出版されていますが、今回発見されたような疎水性スポンジ構造の自発的な形成過程の観察例はありませんでした。さらに、ゲル・ゲル相分離材料をモデル動物の皮下に埋め込んだところ、周囲から細胞が入り込み、血管を含む脂肪組織が形成されました。このような、特異的な生体組織親和性は従来のPEGゲルでは全く見られません。これらの結果より、生体内において細胞が入り込み、その場で組織再生を促す足場材料としての可能性が示されました。本研究成果は、「Nature Materials」のオンライン版で公開されました。
図1:ゲルを作製する際に含まれる水の量を増やせば増やすほど、相分離が進行してゲルは白濁し、疎水性微粒子をより吸着するようになる。